旅路

2月に行くことになっていた歯科医院が苦手で、延ばしていたものの、ふと明日は行こうと思い立って予約を入れました。その帰りのことです。近道に、デパートの中を通って抜けようとすると、「東山魁夷 版画100撰展」が開かれている案内が目に留まりました。

閉店まで1時間もありませんでしたが、会場に足を向けました。入場は無料でしたが、100撰というだけあってとてもたくさんのリトグラフが展示されていました。

本や画集で見るだけで、生涯実物大の「道」の絵を見ることはないかもしれないと思っていたのに、こんなに早く「道」の前に自分が立つとは思ってもみませんでした。リトグラフで、販売されているものですので、全く「本物」というのかどうかはわかりませんが。

「道」の絵は、その前に立つと、本ではわからなかったことが伝わってきました。

不変の「若さ」と「強さ」です。道の両脇には緑の草むらがあるのですが、目の前にすると「ピンクがかったグレーの道」(東山魁夷著「風景との対話」/新潮選書)ばかりが圧倒的に迫ってきました。広く大きく感じられます。絵の中に私自身が入り込んでいるかのような錯覚に捕らわれました。

例え今からでも、このような道を歩んでみなさいと誰かに力強く背中を押されたようでした。私もまた旅路の途中にあるのでしょうか。

その力強いことに、「あの世」から何かメッセージが送られているような、「あの世」にいる人の存在を感じました。ジャン・コクトーの映画「オルフェ」では鏡の中へと、別の世界へ入ってゆきますが、そのような別の世界が、日常の中のすぐ傍にあるのではないかと思いました。

私にとって今まで「あの世」について考えることはタブーでしたし、今テレビなどでもてはやされているような占いめいた精神世界にも一切興味はありません。しかしよくあの世とこの世は繋がっていると言いますが、そのようなことを身をもって感じざるを得ませんでした。