晴れる心

妻吉は人気の舞妓でしたが、踊りの師でもある養父のひき起こした事件に巻き込まれ、養父によって両手を切断されます。
しかし、その無くした手の代わりに人形使いに手伝ってもらって踊るのですが、舞台直前になっても自分の踊りに得心がゆかず、苦しみ悩みます。その時義父の声が聞こえてきて妻吉を導きます。

「お前は自分の踊りに自信を持ち過ぎている。自惚れている。それが三番叟のできない何よりの難点だ。
・・・踊りの才をいつも頭から失わず、慢心しているからだ。なぜ人形使いに自分をまかせきれないのだ。己を“デク”にして、人形使いの自由になって踊れば必ず成功する。
三番叟だけではない、慢心は一生の傷だ。この三番叟の踊りを、これからの一生を踏み出す足場として修行を積み、この上の心の持ち方を良く顧みるのが肝腎だ。」

『無手の法悦』(大石順教著/春秋社)

妻吉は「何事によらず自惚れていた」「なんという卑しい心だろう」と気づくと晴れ晴れとした気持ちになるのでした。